【サッカロマイセス酵母】コーヒーの発酵プロセスの広がり

ようこそ、奇特なコーヒーラバーの皆様!

きっとこのページを読んでいる方はチロッソの商品ページを見て、気になってこちらのページに飛んできた方がほとんどだと思います。(そうじゃない方は新商品のチロッソ・サッカロマイセス酵母発酵を是非チェックしてみてください)

【NEW!!】ヨハン・ヴェルガラ チロッソ/サッカロマイセス酵母発酵ナチュラル(浅煎り) – ASLAN COFFEE FACTORY

コーヒー豆を買うためだけにこんなに活字を欲する貴方はきっと真のコーヒーラバーだと思います。(謎の上から目線)

 

今回のこのお豆は最近お店でお客さんから常々質問されてきた「最近のコーヒーの発酵の味」についてちょっと切り込んだお話が出来るいい機会かなと思ってまとめています。

実際、店頭での販売では試飲をお客さんにしてもらいながら、チロッソの説明をしているんですが・・・

その際に必ずと言っていいほどこの話につながります。

ご興味あれば一読してみると新しいコーヒーの視点が見つかるかもしれません。

 

さて、今回のサッカロマイセス酵母発酵という精製なんですが・・・

簡単に言うと、今まで聞いたことのない新しい発酵方法を加えてます。

この発酵方法の「酵母菌を添加している」というワードから必ずと言っていいほど聞かれるのが

「インフュージョンじゃないんですか?」って質問です。

これが本当にややこしい話・・・。

最近のコーヒーの特殊発酵プロセスは本当に多種多様でどんどん進化しています。

このサッカロマイセス酵母発酵のみならず、最近はインフュージョンではないのに酵母菌が添加されている発酵プロセスも割と珍しくないようで、「他のコーヒー屋さんでもこんな酵母菌のやつがあったけどそれはどうなんですか?」と質問されることが多くなりました。

正直一般ユーザーの方が置いてけぼりにされていってる感が目立ち始めているような気がしたので、ちょっと僕なりにインフュージョンに対しての見解をまとめてます。

僕の見解としていえるのはインフュージョンは広義的な概念で言えば、ワインでいう所の選抜酵母や選択酵母に近いかなと思っています。

狙った菌の活動を人工的に促す作り方です。

ただそこにコーヒーチェリーが自生する環境下では出会うことが絶対に考えられない菌との遭遇を人工的に意図的にマッチング(別の菌を添加)させることが”インフュージョン”と呼ばれている印象を僕は受けています。

なので(それをコーヒーとして認めるかどうかという話は置いておいて、)確実にテクニカル系です。

その発酵から生まれる風味には土壌というテロワールのみならず、(もしくはそれ以上に)生産者の農耕技術によって作り上げられる発酵の味が特徴的なジャンルです。

今回のサッカロマイセス酵母発酵はコーヒーチェリー自身の表皮に付着している菌を自然培養して添加しています。

インフュージョン議論としてこの点を簡潔にまとめると

自然に自生している土壌からの付着菌を

”培養”して酵母菌にして”添加”してるから「別の加工菌」と言うかどうか

培養や添加という行為が本来のコーヒーの味を阻害するのかしないのか 

という議論がこの豆がインフュージョンなのかそうじゃないのか論になります。

僕はこの議論ちょっとフードファシズムっぽくなってきてない?って感じてます。

というのも・・・

僕が大好きなコスタリカの生産者オスカルさん(別名:発酵の変態)のような完全なる自然発酵ではありませんが、このサッカロマイセス酵母発酵は限りなく自然の状態を活かした人工的な味作りを目指している作り方になります。

分かりやすく例えると・・・

狙った土壌菌を培養し、添加する方法は日本でも馴染みがあるはずです。

日本酒です。

日本酒はざっくり説明すると、お米の菌を自然培養し、麹菌にして添加してお酒にします。(本当はもっと複雑です。)

麹菌だけが純粋培養できるように麹室を作り、

麹室では麹菌の活動をコントロールするための環境温度や環境湿度を人間が管理します。

それだけでなく、余計な菌が麹室に生息しないよう杜氏は発酵食品を食べないなど、自分が口にするものまで制限します。

お酒造りってすごいですよね。

めちゃくちゃ努力してるし、職人のようなこだわりです。

そんな日本酒の作り方に対して

「え、まっそれ、インフュージョンじゃないの?」

って、言われたらどう思いますか?

なんかちょっとナンセンスだなとか思ったりしませんか?

たぶん首をかしげながら

「日本酒はインフュージョンじゃないよ、日本酒にインフュージョンがあるとしたらどっちかっていうとそれは、クラフトサケだよ」って言う人が大半かと思います。

ここで大事なことは「日本酒は職人のような工程のこだわりが見える、情報としてそのことを知っている」から「何言ってんの?」って気持ちになるという点です。

では、このサッカロマイセス酵母はどうでしょうか?

そう、日本酒と全く同じ作り方です。

農家やバイヤー、コーヒー屋やお客さんなどコーヒーに携わるすべてのコーヒーラバーがこういう類の新しい発酵方法に対して「インフュージョンかどうか」を大なり小なり気にしています。

スペシャティコーヒーは情報の透明性が最も大事なので、そういった質問は大事な視点だと思います。

ただ同時に強く意識しておかないといけないのはインフュージョンに関する問題提起は「こだわりが見えるか見えないか」と「コーヒーの風味を阻害してるかしてないか」という論点であって、決して「インフュージョンだからこだわりがない」という結論にはならないということです。

これは新しいフードファシズムを生むと僕は考えています。

今後コーヒーはもっと多様性に溢れるはずです。

そんな世界でこうした意識を常に持っておくのはこれからのコーヒーの多様性を楽しむうえではすごく重要かもしれません。

でないと、いつの間にか自分の感性がインフュージョンは悪いみたいな謎のニュアンスに迎合し始め、

知らないうちに新しい価値を既存の価値観に当てはめて「こんなもんコーヒーじゃねぇ!」とその世界で情熱を燃やして一生懸命頑張っている人々の努力を一喝で終わらせてしまうコーヒー観念になってしまうかもしれません。 

インフュージョンというのはあくまで新しい価値規範であり、概念形態です。

そこで問題となっているのはきっとどこかのだれかの情報の不透明性です。

問題意識は食品としての安全保障と、味覚に訴えかける風味体験に対する情報の透明性なんです。

そう、インフュージョンは悪い子じゃないんです!

(圧倒的お母さん感)

 

とまぁ、あまりネガティブなこと言うと偉い人に消されてしまいそうなのでこの辺にしておきます苦笑

 

ただ、なぜここまではっきり明確にするのかというと、

それはこの豆を扱っているバイヤーさんが「インフュージョン」というこの言い方をかなり嫌がるからです。(その熱量が大好き)

なので、ASLANとしても「これはインフュージョンではない」ということだけはっきり断言しときたいわけです。

僕はインフュージョン大好きなんですけどね!

まぁ、テクニカルワインとかクラフトジン大好きな僕としてはインフュージョンであろうがなかろうが食品としての衛星的な安全保証と風味としての品質保証があれば何でもいいと思っています。

 

そもそもインフュージョンという定義自体、曖昧だと思ってるし、

インフュージョンだったら悪いのかすら僕自身は思ってたりします(毒強め)

いつの日か農家さんが「これはめちゃくちゃインフュージョンです!すごいですよ!」って顔をキラキラさせながら誇りを持って別の菌を加えたことを語れる日が来たら良いなと思っています。

 

 

自然派もテクニカル派もみんな仲良くしたらいいのよ(小声)

 

 

サッカロマイセス酵母とは?                       

 ブドウやコーヒーチェリーは不思議な果実で、さまざまな酵母がすでに果皮に付着しています。

ワインの世界はコーヒーと比べて生産の歴史が長くこの酵母の活動を活かした味づくりに関して造形の深さがあります。ブドウの果皮に付着している酵母菌を活かしてアルコール発酵をさせて作られるのがワインですが、実はこうした発酵の工程はワインだけでなく、コーヒーの世界にも当てはまります。本当はコーヒー学の分野でこのサッカロマイセス酵母や発酵の話をしたいんですが、コーヒーの権威性がある論文や資料はまだこの分野において文献の数が少ないので、今回の発酵のお話は半分くらいワインの話です・・・ついてきてね(小声)

さきほど、発酵の工程において酵母菌の活動が欠かせないと言う話を少ししましたが、その中でも最もワインに関係している酵母菌がサッカロマイセス・セレビシエになります。

このサッカロマイセス・セレビシエはワインの世界では「ワインの全てを決める」といって良いほど重要な酵母として広く知られています。

サッカロマイセス・セレビシエが重要な理由は、アルコール耐性が強いからです。クロエケラやクリプトコッカス、ハンセニアなどは、アルコール発酵が初期の頃には多いのですが、高温となり、さらには酵母たちの力によりグルコースとフルクトースが複雑な経路でアルコール発酵を起こすと、死滅してしまいます。ただサッカロマイセス・セレビシエはそうした他の菌が死滅する中、アルコールに対して耐性の強い酵母菌なので生き残ります。ワインの香りにおいて、第二のアロマと呼ばれる「発酵の香り」はまさにこのサッカロマイセス・セレビシエが放つ香りです。

そう、サッカロマイセス・セレビシエはワインの香りと重要な結びつきを持っています。

そもそも、Saccharomyces cerevisiae (サッカロミケス・セレビシエ/サッカロマイセス・セレビシエ) は酵母の一種で、「出芽酵母」や「パン酵母」というと一般的にこの種を示します。ビールや日本酒などのアルコール醸造に欠かせない微生物であると同時に、ヒトと同じ真核生物であることから、モデル生物として古くから様々な研究がなされてきました。「出芽酵母」という名前の通り、1つの母細胞の端から芽が出るように膨らみが生じ、娘細胞ができます。娘細胞が母細胞と同じくらいの大きさまで成長した後、母細胞 (親元) を離れて増殖していきます。

正式な名前 (学名) は、「Saccharomyces cerevisiae (Desm.) Meyen」であり、1838年にMeyenによって命名されました。分類学的には、カビやきのこと同じ「菌類界」に属し、その中でも「子嚢菌門・サッカロミケス亜門・サッカロミケス綱・サッカロミケス目・サッカロミケス科・サッカロミケス属」に分類される種になります。属名の「Saccharomyces」は「ギリシャ語の σάκχαρον (sakcharon) 起源のラテン語の糖 Saccharum とギリシャ語の菌 μύκηs (myces) の複合語で、種小名の「cerevisiae」は「ビールを意味するケルト語起源のラテン語である Cerevisia の属格 Cerevisiae」に由来します。その学名の通り、S. cerevisiaeは糖を代謝しアルコール発酵を行うことが大きな特徴です。自然界のS. cerevisiaeは各種の果実や果汁などの糖質原料、土壌、海や川、葉、樹液などさまざまな場所に生育しています。

 

サッカロマイセス・セレビシエの香り                  

ワインには、ブドウ由来の香り、発酵によって生み出される香り、樽由来の香りなどの3種類があります。酵母が強く関わるのは、第2アロマですが、さきほどのサッカロマイセス・セレビシエがこの香りの構成菌として深く関わっています。酵母菌が、グルコースなどの糖分を分解してアルコールと炭酸ガスを発酵させているのですが、その分解の時に香りの成分を発生させます。

今回のコーヒー豆においても、香りから芳醇な発酵のニュアンスを感じ取れるのはこのサッカロマイセス酵母によるものです。

 

 

純粋培養したサッカロマイセス酵母の添加                   

コーヒーの発酵で主役となるのは、酵母菌とバクテリア。

コーヒーチェリーに含まれている糖分(スクロース)とミューシレージ(ペクチン)がバクテリアによって分解され、

グルコースとフルクトースという成分になります。

酵母菌はこのグルコースが大好きで、細胞内に取り込み、エネルギーとしています。

“酵母菌がグルコースをエネルギー源として使う“というメカニズムが”代謝”になり、この代謝によって様々な酵素分解反応が起こります。

この反応こそが酵母発酵(イースト発酵)になります。

酵母発酵と呼ばれるこの反応には様々ありますが、酵母菌特有の香りや酸味などを生成します。

私達が普段コーヒーで感じる発酵の味はこうした菌の活動によって生まれているわけです。

 

自然発酵の難しさ                             

こうした酵母の働きを促すとコーヒーの味は劇的に変化します。

さながらワインのような芳醇で力強い明確なアロマが生まれ、味わいには重厚で暗い深みを感じる質感がありつつその中から一筋の光が差し込むような密度のしっかりとした明るい酸味が感じられ、その独特のバランスには果実酒のような贅沢感を味わうことが出来ます。ただし・・・こうした味わいを現在のコーヒー農耕技術レベルで自然発酵によって造るのは奇跡的な産物になります。本当に職人技と呼べるような農家さんの高いスキルが随所で必要になる上に、再現性も低く、大きなリスクを伴います。それほどまでに自然発酵はかなり難しいです。

まず、自然環境にはサッカロマイセス酵母だけでなく、さまざまな酵母菌が存在しています。

しかも、それぞれの菌が生成する発酵の味わいにはそれぞれの特有性があります。

風味として良い発酵もあれば悪い発酵もあるのに、それが発酵初期の状態でどのようなことが起こるか自然発酵では予想できません。さらに、発酵の開始や進行、生成、発酵終了後のタイミングなど、さまざまなトラブルが起こりやすくなります。また、雑菌が入りやすい状態ですので、オフフレーバー(素材から感じることが出来ない異臭)も加えてしまう可能性もあります。

これが、自然発酵の難しさです。

 

純粋培養を使うメリット                          

逆に今回のコーヒー豆のように純粋培養で造られた酵母を使ったり、インフュージョンコーヒーのような選択酵母と呼ばれる発酵方法の優れた点は、自然発酵の逆と考えると理解しやすいです。

最大のメリットは再現性です。

純粋培養や選択酵母は自然発酵と違い、データを集計し、フィードバック量を高めることが出来るので、発酵を人工的に管理することが可能になります。つまり、狙った香りや味わいを目指し、試行錯誤を重ね、高品質で安定した発酵の味を作り出すことが可能です。例えば、色合いを良くするもの、香りを高くするもの、アルコール耐性のあるもので安定して発酵ができるもの…。加えて、“スタックファーメーション”という、発酵が途中でとまってしまうトラブルも防ぎやすいです。数え上げればキリはありませんが、とにかく安心して目指す香りを出すことができます。

このイースト(酵母)発酵を行う菌はコーヒーもワインと一緒で様々な菌がありますが、そこで狙った酵母菌の発酵を促していく方法が今回のクロップのような“純粋酵母”という考え方になります。

そもそも純粋酵母や選抜酵母とは、ワインの世界でははっきりとした定義があります。

フランスなどの有名な産地で使われている酵母を純粋培養し、それを粉末状などにして市販している、いわば添加用酵母を使用することが選抜酵母になります。コーヒーの場合はまだそこまでこうした農耕技術が体系化されていないので、(そもそも純粋培養自体がまだ新しい)まだ添加用酵母の販売は始まったばかりです。どちらかというと、インフュージョンコーヒーが、この選抜酵母に近いかなと思います。(粉末状の酵母菌が売られているわけではないのでちょっとニュアンスは違いますが・・・)ASLANで毎年扱うアルシアファミリーのワインイースト・インフュージョンなんかも発想自体は純粋酵母ではなく、、選抜酵母の考え方に近いと思います。

添加用と聞くとあまり良いイメージが無いかもしれませんが、選抜酵母であれ、純粋培養酵母であれこうした再現性の高さを求めた酵母の技法は農家や私たち、さらには自然にとってかなり大事な技術です。最近、麹菌やワイン酵母菌を添加して発酵させるコーヒーも良く見かけるようになりましたが、その最大の理由はワインにおけるこの選抜酵母のメリットを活かしているからです。

 

「発酵系ってなんか流行ってるよね」                   

最近、僕たちのような小さなお店でもお客さんから「最近コーヒーも発酵はやっていますよね」や「発酵飽きたんですよね」と言われることが増えてきました。

スペシャティコーヒー専門店でここ数年の内に一気に普及し、当たり前のように目にする機会が多くなった新しい精製プロセスと言えば、アナエロビックと言われる嫌気性発酵の工程を加えた珈琲豆でしょう。

なるほど、たしかに・・・

そう言った意味ではユーザーのこうした一言は時代の潮流を掴んでいるようでとても興味深い一言です。

発酵系のプロセスは一見ユニークで風味豊かに思われますが、逆に質感が重たくなりやすくて品質のブレが風味に反映されやすく、発酵によって生豆の細胞組織が分解されて柔らかくなっているので、メイラード反応が普通の生豆と比べて起こりやすい状態で焙煎も難しいです。

非常に扱いがシビアなコーヒー生豆と言えます。

加えて、発酵の品質自体にも良し悪しがあります。ただ発酵してればいいというわけではありません。

ここ数年の豆の買付けでは特に発酵に対して「TOO MUCH(過発酵)」というネガティブな官能評価の知見を強く意識するようになりました。

それほど僕たちコーヒーマンもこの発酵系の精製工程を経たコーヒー豆の市場流通量の劇的な増加と品質のブレを感じながら、この現象がコーヒー産業の発展の潮流であることも同時に認識しています。

だからこそ“流行ってる“わりに普通の生豆よりシビアな扱いが求められる生豆と言えますし、

だからこそコーヒー好きである皆様にそうしたコーヒーの今を知ってもらい楽しんでもらいたいという思いがあります。

なので私達コーヒー屋さんはこうした豆を積極的に提案していきます。

その分だけこの「発酵」に対して現在のコーヒーマン達はかなりシビアに向き合っています。(少なくとも僕が知ってる同業者は・・・多分皆そうだと信じてる)

いつもはこの辺は好みだと思っているので、あまりこういうトーンでの話はしないのですが、好みだと分かっていてもそれでもコーヒーラバーにはこの発酵に対して飲まず嫌いにならずに、色々チャレンジしてほしいと思っています。

それは、コーヒーはウォッシュドであれナチュラルであれ、なんであれ、すべてのコーヒー豆が精製工程において大なり小なり発酵しているからです。

先ほどコーヒー産業の発展の潮流として発酵系のプロセスが存在すると言いましたが、それはコーヒーの全ての精製工程自体に実は発酵工程が存在しているからです。

言うなれば、今流行っている「発酵」はこの工程概念自体の「見直し/ブラッシュアップ/再ブランディング」の流れです。

まだスペシャティコーヒーがなかった時代において、コーヒーを「腐らせる」というネガティブなイメージしかなかった「発酵」が、コーヒー作りとお酒作りの類似点を知り、「綺麗に発酵させれば美味しくなる」というポジティブなイメージへと今、まさに現場の生産意識は変化しています。

この発酵という概念自体の変化が流行りの源流には流れています。きっと、これからどんどん農家さんの生産精度が増していく過程の中で「発酵」という概念も生産現場ベースでより体系化されていくと思います。

今ある様々な発酵系プロセスはいわばその雛形のようなもので、風味をよりユニークにするための発酵の仕方があれば、最近は自然環境の変化で従来の精製工程だと自然発酵でコーヒーが発酵し過ぎてしまう現象も多くなりました。

そのため、例えば嫌気性発酵などは逆に過発酵にならないように人工的に発酵をコントロールして抑えていくことも可能なので、最近はこの視点がとても生産者に受けていて、嫌気性発酵を取り入れる農家さんも増えています。

つまり、生産品質が向上し、スペシャリティコーヒーの味がきれいで風味豊かになっていく過程の中で「発酵」という味を一般消費者が一杯のコーヒーから容易に感じ取りやすくなっていくのは必然の流れだと思います。

「最近アナエロとかなんか発酵が流行っていますよね」

まさにその一言はこの時代の流れを感じさせるひと言だと僕は思います。

流行ると市場供給量もその分だけ急速に増加していくので、品質ムラは市場レベルで起こりやすいです。

明らかに過発酵しているアナエロ系も普通に販売されたりすることもあるので、「発酵系はもういいや」ってなってしまう気持ちはすごく分かるんですが・・・・ただそれでも、もしかしたら貴方の思っている発酵系のネガティブなイメージを覆すコーヒーに出会うかもしれないのに、そのチャンスを自ら手放すのは、食わず嫌いは勿体ないかもしれん。

 

Not to know is bad, but not to wish to know is worse.

(無知は悪いことだが、知ろうとしないのはもっと悪いことだ)

 

知らないことは悪いことではなく、むしろコーヒーの世界において「知らない」は正義だと思っています。

だって、その先にある貴方が感じる「美味しい」にはきっと「普通に美味しい」ではなく、「こんなの飲んだことがない・・・」という新しい美味しさへの感動体験も含まれていると思います。

そのために必要な「コーヒーを知らない」という魔法のスパイスが悪いわけありません。

知らないことだらけということは、これからコーヒーの感動体験が人一倍待っているわけです。

そんな幸せなことってありますか?僕はそれが凄く羨ましいです。

僕はそういう知らないコーヒーに魅了され救われ続けて、もっと知りたいと思い、この世界に入って今でもずっと今回のヨハンさんのコーヒーのような知らない味を求めてコーヒーマンとして働いています。でも知ればするほど感動体験は少なくなります・・・・。

「知らない味に出会いたい」という願望が僕の好きなコーヒーで、ASLANとしての原動力です。

普段出会うことがないからこそ知らない味であり

普段出会うことがないからこそコーヒーっぽくない味であり

普段出会うことがないからこそ特別で、非日常的で、スペシャルなコーヒーで在り続けられます。

そこに「本質的な心地よさ」が同居する風味こそトップロットに相応しいコーヒー豆です。

ASLANとして皆様に提案するトップロットシリーズでは常にそうありたいと思っております。

 

参考文献

URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E8%8A%BD%E9%85%B5%E6%AF%8D

  • 岡山大学『出芽酵母と分裂酵母の基本知識―酵母とシステムバイオロジー04.28―』

URL: https://tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp/HM_blog/?p=97

  • 理化学研究所『酵母の果糖発酵と資化能力を再発見-388株の酵母を使って見過ごされてきた能力を検証-』URL: https://www.riken.jp/press/2021/20210405_1/index.html
  • 日本ワイン.JP『野生酵母で造られたワインの味わいに「Non Saccharomyces属酵母」が関連している?』

URL: https://nihonwine.jp/enjoy-nihon-wine/non-saccharomyces-wine/

  • SAKE STREET 二戸浩平著『実は味の決め手?日本酒造りに使われる「酵母」を学ぶ』

URL: https://sakestreet.com/ja/media/learn-yeast-for-sake-1

  • Roast Design Coffee三神亮著『嫌気発酵を極める!?Yeast Fermentation(イースト)とLactic Fermentation(乳酸菌)』

URL: https://coffeefanatics.jp/anaerobic-yeast-lactic-fermentation/

  • Science Direct『Coffee flavour modification through controlled fermentations of green coffee beans by Saccharomyces cerevisiae and Pichia kluyveri: Part I. Effects from individual yeastsChenhui Wang a, Jingcan Sun b, Benjamin Lassabliere b, Bin Yu b, Shao Quan Liu)』

URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S096399692030613X

  • LWT:Volume 138, March 2021, 110751『Biotransformation of spent coffee grounds by fermentation with monocultures of Saccharomyces cerevisiae and Lachancea thermotolerans aided by yeast extracts

URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0023643820317394

  • Perfect Daily Grind November 17, 2022『How can controlled fermentation processing methods enhance coffee flavour and quality?

URL: https://perfectdailygrind.com/2022/11/controlled-fermentation-coffee-flavour-and-quality/

  • Lavinia Liliana Ruta and Ileana Cornelia FarcasanuCoffee and Yeasts: From Flavor to Biotechnology

URL: https://www.mdpi.com/2311-5637/7/1/9

URL: https://perfectdailygrind.com/2019/04/how-to-ensure-consistency-in-coffee-fermentation-processing/

  • Perfect Daily Grind January 25, 2021『How do microorganisms affect fermentation & the sensory profile of coffee?

URL: https://perfectdailygrind.com/2021/01/how-do-microorganisms-affect-fermentation-the-sensory-profile-of-coffee/

15.  Perfect Daily Grind March 13, 2023Is there a difference between infused and flavoured specialty coffee?

URL:https://perfectdailygrind.com/2023/03/the-difference-between-flavoured-and-infused-specialty-coffee/