【農協システムの付加価値】コーヒーという世界の職業倫理とノブレスオブリージュ

世界中の多くのコーヒーの起源と同様に、コーヒーが最初にコロンビアに持ち込まれたのは、17 世紀前半でした。

文献は古く正確に誰がコロンビアの大地にコーヒーノキを遠いアフリカ大陸から持ち運んできたのかはわかっていませんが、最初にカリブ海を経由してアメリカ大陸に伝わってから、おそらく 10 年か 20 年以内にキリスト教系の聖職者によってもたらされたと考えられています。

持ち込まれた後のコーヒーの用途としてはおそらく、当初の何十年もの間、消耗品との物々交換のために栽培された園芸用の作物だったと推測されています。

 

他のコーヒー産地とは異なり、コロンビアにはその後のコーヒーの伝番に関して残っている資料があり、その中に「フランシスコ・ロメロ」という名前の司祭の話があります。

彼は、コロンビアの商業コーヒー栽培の父と呼ばれる人物です。

民間伝承によると、1800 年代初頭、フランシスコ神父は、北東部の町サラザール・デ・ラ・パルマスで罪の告白を聞いて、教区民の罪の償いとしてコーヒーを植えることを割り当てました。

コロンビアの大司教はこれを聞き、すべての司祭にこの慣行を採用するよう命じたそうです。コロンビアのコーヒーの商業生産はそれをきっかけとして急速に拡大したと言われています。

 

コロンビアのコーヒーに関して言えば、ウィラ地方は常に人気があります。

 

ウィラはコロンビアアンデス山系の南部に位置しており、この地域は豊富な自然に取り囲まれています。

火山灰による肥沃な土地が点在し、山あいの谷が年間を通して安定した気候を維持しながら、比較的他県に比べてコロンビアの中では高温地域です。

ですが曇りが多く、日射時間の平均が1日に3.5時間と短いため、チェリーは直射日光で葉焼けすることがなくすくすくと育ちます。

 

アンデス山脈からマグダレナ河が流れ出るこのウィラは奇跡の土地と現地では呼ばれており、常にコロンビアコーヒーの素晴らしい物語とコーヒーがここウィラで誕生します。

 

高品質のコーヒーに加えて、ウィラ県のコーヒーはコロンビアにない生き生きとした明るい酸味、パワフルでジューシーな甘さ、茶葉のようなアロマの強い香りが特徴の独特のカップ プロファイルでも有名です。

毎年行われるカップオブエクセレンス・コロンビア品評会においても受賞リストの中にはこのウィラ県の生産者が散見されます。

 

今回のロットはカトゥーラ、コロンビア、ピンクブルボン、ゲイシャなど様々な品種を取り扱うウィラ県の小さな小規模農家の若者たちが集まって作る地域のショーケースの一つです。

 

こうした農協品でゲイシャのシングルオリジンを商品化するのはあまり常例ではありませんが、こうした事例こそがコロンビアのコーヒーが毎年面白くなっている証と言えるでしょう。

 

コロンビアでは常にこうした零細農家による草の根活動など小さなムーブメントが各地域、各企業、各組合ごとに存在し、フレキシブルな情報交換の中で相互作用しあいながら小さな思いが火種のように次第に大きくなり、私たち(市場)がコロンビアコーヒーとして認知する全体象そのものを再構築(イノベーション)しているのだと思います。

 

ASOBOMBO は 5 人のチームによって率いられ、業務は代表、管理、および品質管理に分かれています。 ASOBOMBO のモデルの最前線にあるのはエンパワーメントと独立性であり、より良い農業実践とコーヒー加工技術を開発するための農業指導に焦点を当てています。

コロンビアでは農薬を使用することによる土壌汚染の問題が深刻化しつつあり、グループ結成の優先事項の 1 つは、生産者が土壌を回復することでした。そのために彼らは農家の作物と収入に投資して即効性の強い形で生活の質を向上させました。

 

そこにどんな意味があるでしょう?

 

おそらくこれは何か大きな展望のファーストステップなのでしょう。

 

次世代農家の挑戦には宿命という名の倫理観と農協システムのフロンティアを感じられます。

 

近年ますますサステナビリティの意識と共にオーガニックへの関心が高い欧米市場に向けたコーヒープロダクションでは、USDA Organic のような認証プレミアムを獲得することにより、農家はコーヒーから平均 35% 多い収入を得ることができます。

そのため、ASOBOMBOでは生産者に対してカップの品質向上により生まれる付加価値によって高い収入を得られるスペシャリティコーヒー生産の実践に加えて、価値の高いコーヒーと農園の持続可能な生産システムの構築という夢をより安定的かつ現実的な実現プロセスとして確立していくために、有機農業に特に積極的に取り組んでおり、ASOBOMBOでは二年前から有機およびレインフォレスト アライアンス認定生産への移行を行っています。

 

ASOBOMBO協会は現在カウカ県、トリマ県、ウィラ県に支部があり、こうした基本的な方針はどこの支部でも変わらないのですが、それに合わせて各支部が各地域の小規模農家さん達の事情に合わせたコミュニティ機能を発揮しており、そのため同じボンボ農協といえど各支部にそれぞれ異なる地域的な生産的・文化的特徴があります。

 

ここウィラ県の支部ではウィラ県の170の農園が加盟しており、その多くが標⾼1,600m以上2,000mに近い⼭々にあります。

 

ウィラのボンボ農協は世代交代した若手の農園が多く、農協の経営幹部は30歳前後の若⼿⽣産者たち。

 

また、その約半数の20名ほどが女性農家で、女性の職業支援や自立を促すサポートもしており、ウィラのボンボ農協は他のコロンビアの農協と比べるとかなり年齢層が若く、現代的で、荒々しくも快活な情熱があります。

 

彼らのほとんどが両親や親族が続けてきた伝統的な農園を引き継いでいますが、若い彼らは胸中に大きなロマンを秘めています。

 

現在、コーヒー産業に関わる多くの知識人たちや長期的ビジョンを持ったコーヒーショッパー達の中でこれから先の未来のコーヒー産業に対しての見解は常に暗く、憂鬱で、神の救済を求めるような終末論的な展望で概ね一致しています。

原因は産業構造的で根が深く、ここ最近では地球温暖化によって地球の環境は大きな変化が生まれており、議論はさらに加速しています。

 

昔はコーヒーベルトと呼ばれていた赤道近くの生産地域でも乾期の時期に大量のスコールが降るようになり、雨期の時期は雨の量が少なくなり、コーヒーノキに栄養が行き届かず花の咲く量が少なくなってしまうこともしばしば見られるようになりました。

 

加えて、情報社会と断絶しやすい山奥の農園で従事する小規模生産者たちは自分たちの相棒であるコーヒーノキが環境変化に次第に適応できなくなっていることに気づかず、土壌に対する強いストレスを与えてしまう従来の成育方法を未だに続けているケースもまだまだ常態化しています。

 

こうした構造的・自然的・人的影響など多角的な原因によりコーヒーの生産現場はコーヒーを作ること自体が年々と難しくなっています。

 

100年後の地球にはコーヒーノ品種が存在していないかもしれないとすら考えている専門家がいる中で、若さ溢れるウィラ・ボンボチームはネガティブな展望が強くなるコーヒーの未来を自分たちの力で変えていこうと伝統的な慣習と現代的な農業へのアプローチの両方でコロンビアの土壌を強化することに意欲を燃やしています。

 

全員が一丸となって働いており、昔からコロンビアの伝統的な方法として受け継がれるウォッシュド製法も守りつつ、一方で消費国の市場ニーズやトレンドも強く意識した品質向上を目指し、新しい品種や新しい精製プロセスにも前向きに取り組んでいます。

 

今回のロットであるゲイシャ種クロップも農協品としては珍しいスタイルです。

 

ゲイシャ種は生産者にとって大きな付加価値を生みますが、栽培コストが嵩むため独自性と生産品質の再現性に強い大規模農園主がブランド商品として取り扱うことが基本的には推奨されるべき品種であると僕は考えています。

 

なぜなら、それだけ小規模農家でのゲイシャ種の商品化は生産性の再現性にリスクが伴い、収入が安定しません。

 

このリスクマネジメントに対するタスク管理が無ければゲイシャという品種は生産者にとっては、「金の成る実」ではなく「破滅の実」になります。

 

ですが、彼らウィラ・ボンボチームはこうしたリスクに対して面白い価値提案をしています。

小さな生産者どうしが緊密にコミュニケーションを取り合ってリスク分配することによって、小規模農家単体では商品化の価格転嫁が難しくなりやすいこうした問題点に対し、農協品という従来の枠組みを使って価値の再創造を行っています。

ゲイシャクロップでありながらレインフォレスト認証をわざわざ取り、オーガニックコーヒーとしてプロデュースする点もこうした収入の安定性に配慮した農協らしいシステムと言えるでしょう。

 

ゲイシャ種は品種自体に豊かなキャラクターがある付加価値の高さ故にユニークな風味を志向する生産と需要のニーズがコーヒーのハイブランド戦略としてここ20年でかなり大きくなりました。

ですが、こうした全体市場の経済の大波に攫われて、溺れてしまわないように一生懸命泳ぎ続ける小さな存在は大衆に埋もれ、常に忘れ去られやすいです。

こうした小さな生産者が溺れないように必死にもがく姿もまた僕が大好きなスペシャリティ・コーヒーと呼ばれる世界に存在する一つの現実です。