[デル・エデン]インフージョン(加工)がもたらすこれからのコーヒー未来

はじめに

このインフューズドコーヒーは飲んでも知っても人にとって好き嫌いがはっきりと分かれるコーヒーだと思います。そこには味覚の好みもあれば、コーヒーとしての価値判断も含まれていると思います。

僕がASLAN Coffee Factoryとして今回のお豆を皆さんに提案したいのはこうしたスペシャリティコーヒーのとスペシャリティコーヒーの一つの楽しみ方を紹介する上でとても有意義なものであると思ったからです。

まずは飲んで「なんじゃこりゃっ!」って驚いてほしいです。

そして、なんでこんな味がするのか気になればその答えはここにあるので長いですが読んで見てください。

 

序章‐スペシャリティコーヒーの広がり‐

スペシャリティコーヒー産業は、1980年代アメリカで従来のコモディティコーヒー産業の構造的欠陥を踏まえたある種アンチテーゼのような根本理念を基に誕生しました。

「生産者の生活品質向上」と「コーヒー豆の品質向上」の二枚看板を掲げたスペシャリティコーヒー産業はそれから半世紀が経ち、今やコーヒー産業を支える一大マーケットへと成長しました。安価で大量生産を売りにするコモディティコーヒーでは想像もできなかった莫大なお金が日々、流動的に動きます。

 

スペシャリティコーヒーマーケットはまだ歴史が浅く、産業的な構造も未熟で、法的整備も追い付いていないわりに、今までに味わうことがなかったコーヒーの風味は容易に高値で売れることもあります。そのため、現在では世界中の資本家がなだれ込むようにコーヒービジネスに参入しています。

こうしてスペシャティコーヒーは、沢山の人々がコーヒーの新しい発見に胸を躍らせ、札束を握りしめてまだ見ぬ新しいコーヒーの風味を心待ちにするようになりました。

 

それに比例して、生産者がコーヒーを作れば作るほど生活の質が向上していくようなそんな明るい未来がその先に待っていればいいのですが・・・

僕は今、スペシャリティコーヒーはそうじゃない未来に向かっている気がしています。

今急速に広がるスペシャリティコーヒーの世界には、誕生期に掲げた「サステナブル・プロダクション(持続可能な生産)」という革命の旗印が今もなおそのままの形で果たして本当に意識されているのでしょうか?

 

今回、ASLANで扱うこのインフューズドコーヒーはこうしたスペシャリティコーヒーの今を問う、とても話題性と議論に富んだジャンルです。

 

第二部‐「テロワール」と「発酵」と「インフュージョン」‐

インフューズドコーヒーとはコーヒーチェリーを収穫し、コーヒー豆へと精製する段階でコーヒーチェリー以外の別の菌と共に発酵過程を加えられたコーヒーのことを総称した呼び名です。

生産現場でナチュラル製法やハニー製法、ウォッシュド製法など従来の精製方法の精密性を高めるために多角的な視点での研究が進められていく中で、コーヒーチェリーに含まれる微生物(特に酵母菌)の活動に焦点を当てた「発酵」によるコーヒーの品質向上が注目を浴びるようになりました。酸素を取り除いた状態の密閉タンクにコーヒーチェリーを詰めて密閉して発酵させる嫌気性発酵など現在、生産現場では比較的ローリスクでの発酵工程の導入が急速に進んでいますが、こうした急速な進化に科学的な知見や経験的な知見が伴っていないことに警鐘を鳴らす人々も多くなっています。

 

その代表的な人物がサーシャ・セスティック氏です。

(写真元:https://coffee.ism.fun/article/c14dca77-a750-4826-b4d3-9068152f0b94

彼は2015年世界バリスタチャンピオンシップでオーストラリア代表として世界王者に輝いた人物ですが、その大会で彼が使用した豆は赤ワインの精製工程から着想を得た「カーボニック・マセレーション」という新しい発酵プロセスを取り入れたものでした。

サーシャが大会で紹介したカーボニック・マセレーションの技法はとても革新的で大きな影響をコーヒー業界に与えました。それ以降、様々な世界規模のコーヒー競技会においてワインや果実酒など別分野の「特殊な発酵」を加えたコーヒー豆が使用され、上位にランクインするようになりました。

 

業界に「発酵」という新しい着想を提示し、時代の潮流を作った彼が現在の発酵プロセスの広がりに関して大きな不安を覚えていることを掲載した記事はとても話題を集めました。

詳しい内容に興味があるかたは『Perfect Daily Grind - What’s the problem with infused coffees?https://perfectdailygrind.com/2021/08/infused-coffees-experiments-with-fermentation/で、紹介されているので読んで見てください。ここでは、そのサーシャ氏の論文の一部を抜粋して紹介していきます。

そこでサーシャが発表した研究結果は“コーヒーチェリーとは異なる別の菌をコーヒーチェリーと一緒に加えて発酵させて出来上がるコーヒーの風味にはコーヒーチェリーの特定の酵母菌と何か別の外来的な菌が結びついて出来上がるといった相関性が認められるものではない」ということでした。

 

In our experiments with carbonic maceration, we target specific microorganisms by controlling different variables during fermentation. These variables include tank temperature, environment, time, yeast and bacteria esters, and many more.

(訳:カーボニック・マセレーションの実験では、発酵中にさまざまな変数を制御することにより、特定の微生物をターゲットにしています。制御可能だと考えている変数には、タンクの温度、環境、時間、酵母とバクテリアのエステルなどが含まれます。)

Doing so allows us to elevate the flavour profile of the coffee, raising its cup score and changing its taste in a specific way.

For example, in order to improve a coffee’s texture and to increase its creamy, buttery mouthfeel, we designed a style of fermentation that highlights the presence of microorganisms like Bacillus subtilis and Bacillus amyloliquefaciens. These microorganisms produce a final compound called acetoin, which is responsible for giving coffee a buttery taste. But even so, there are limits to which flavours fermentation can produce.』

(訳:そうすることで、コーヒーのフレーバープロファイルを高め、カップ スコアを上げ、特定の方法で味を変えることができます。

たとえば、コーヒーのテクスチャーを改善し、クリーミーでバターのような口当たりを高めるために、枯草菌やアミロリケファシエンス菌などの微生物の存在を際立たせる発酵スタイルを設計しました。これらの微生物は、コーヒーにバターのような味を与える原因となるアセトインと呼ばれる最終化合物を生成します。とは言え、発酵が生み出すフレーバーには限界があります。)

 こうしたサーシャの主張から伺えるのは「元々持っているコーヒー豆の品種特性や、成育特性から広がるフレーバーを補完し、よりよい品質へと高めるために「発酵」という精製工程が使われるべきだという考えです。

彼ははじめに自分が作り出したカーボニック・マセレーションの意義と目的を先に紹介したうえで、続けて、それから問題視している別の発酵工程を加えたコーヒー豆について紹介していきます。

 

At the 2018 Amsterdam WBC, I had the privilege of tasting other competitors’ coffees. One national champion offered me an espresso; as soon as I held it, I could make out a distinctive cinnamon smell. When I tasted it, the note of cinnamon carried through to my palate. It was like I had put an entire stick of cinnamon in my mouth.

(訳:2018 年のアムステルダム WBC で、他の競技者のコーヒーを試飲する機会がありました。ある全国チャンピオンが私にエスプレッソを提供してくれました。持った瞬間、独特のシナモンの香りがしました。食べてみると、シナモンの香りが口いっぱいに広がりました。シナモンスティックを丸ごと口に入れたようなものでした.

 

I have tasted some really unique and rare coffees, but this one stood out. I asked the competitor about the process, and he told me that the cinnamon flavour was caused by a “special yeast” that reacted with the coffee to produce this particular taste.

In Boston in 2019, we saw another cinnamon coffee used in the Brewers Cup. Once more, the competitor told me the cinnamon flavour was achieved through the use of specific microorganisms during fermentation.

(訳:私は本当にユニークで珍しいコーヒーをいくつか味わってきましたが、これは際立っていました.競合他社にプロセスについて尋ねたところ、シナモンの風味はコーヒーと反応してこの特定の味を生み出す「特別な酵母」によって引き起こされた.

(訳:2019 年のボストンでは、ブルワーズ カップで使用された別のシナモン コーヒーを見ました。競合他社は、シナモンの風味は発酵中に特定の微生物を使用することによって達成されたと私に言いました.

 

Both coffees came from the same country (Costa Rica), but were from a different farm, of different varieties, and processed differently. Yet they shared the same cinnamon taste. Today, while we cannot be 100% certain, I believe that these cinnamon coffees and others like them have been artificially infused with this cinnamon flavour. Research strongly suggests that such an intense cinnamon flavour cannot naturally be achieved in coffee, no matter how it is processed or fermented.

(訳:両方のコーヒーは同じ国 (コスタリカ) から来ましたが、異なる農場、異なる品種、異なる方法で処理されました。それでも、彼らは同じシナモンの味を共有しました.

今日、100%確実とは言えませんが、これらのシナモンコーヒーや他の同様のコーヒーには、このシナモンフレーバーが人工的に注入されていると私は信じています。研究によると、これほど強烈なシナモンのフレーバーは、どのようにコーヒーを飲んでも自然には得られないことが強く示唆されており、おそらくそれは加工または発酵されています。)

 

In 2019, I was invited to judge the La Loja competition in Ecuador. While cupping one of the tables in the first round, I smelled one particular coffee which had an intense aroma of tropical fruit.When we tasted the coffee, this tropical flavour was completely dominant. Many judges suggested checking to see if the green beans could produce this flavour. We ran some tests, and afterwards chose to disqualify it from the competition, as it was clearly infused.

(訳:2019年、エクアドルで開催されたラ・ロハ・コンペティションに審査員として招待されました。最初のラウンドでカッピングしているときに、トロピカル フルーツの強烈な香りがするコーヒーが一つだけありました。私たちがそのコーヒーを味わったとき、このトロピカルな風味が完全にカップの風味を支配していました。多くの審査員は、サーシャがこの風味を生み出すことができるかどうかをチェックすることを提案しました.いくつかのテストを実行した後、明らかに注入されていたため、競争から失格にすることを選択しました.

The following day I spoke to the producer. He said that he had used the CM process, but also added local tropical fruit flavouring during and after fermentation. He gave me some fruit to taste, and it was delicious. It tasted exactly like the coffee. However, this coffee was then used to win the Italian Brewer’s Cup a few weeks later. The competitor using it was not aware that it was infused.

(訳:翌日、私はプロデューサーと話しました。彼は、カーボニック・マセレーションプロセスを使用したと述べましたが、発酵中および発酵後に地元のトロピカルフルーツフレーバーも追加しました.彼は私に試食用の果物をいくつかくれましたが、それはおいしかったです。コーヒーと全く同じ味でした。

しかし、このコーヒーは、数週間後にイタリアのブルワーズ カップで優勝するために使用されました。それを使用している競合他社は、それが注入されたことに気づいていませんでした.

 

While there’s no issues for the general consumer, the rules for the World Coffee Championships state a competitor may not use a coffee which has had any additives, flavours, colourants, perfumes, or aromatic substances added between harvest and extraction. Competitors need to obtain this information from the farmers and verify it to ensure they aren’t disqualified. The two I spoke to in Amsterdam and Boston were confident that their lots were 100% non-infused.However, I believe there’s no way they could have had such a strong cinnamon profile without it. Cinnamon and rose notes can appear in coffee, but at such an intensity, it is highly unlikely that these flavours were natural.

(訳:一般消費者には問題はありませんが、ワールド・コーヒー・チャンピオンシップの規則では、競技者は、収穫から抽出までの間に添加物、香料、着色料、香料、芳香物質が添加されたコーヒーを使用してはならないと規定されています。

競技者は、農家からこの情報を入手し、失格にならないように検証する必要があります。アムステルダムとボストンで私が話をした 2 人は、彼らのロットが 100% 注入されていないことを確信していました。しかし、それがなければ、これほど強力なシナモンのプロファイルを持つことはできなかったと思います.シナモンとローズの香りがコーヒーに現れることがありますが、そのような強烈さでは、これらのフレーバーが自然のものである可能性は非常に低いです.

 

In recent years, we have also seen a trend of unusually-flavoured coffees winning at some prestigious competitions, such as the Cup of Excellence and national Brewer’s Cup and barista competitions.This has made me wonder what will happen with coffee competitions in the future. What if we see more competitors using these infused coffees? How will this affect our industry? The issue isn’t that these coffees are being produced. I have no issue with using essential oils or cinnamon sticks to infuse or flavour coffees. In many markets around the world, coffees like these will be popular. The problem is transparency.

(訳:近年では、カップ オブ エクセレンスや全国的なブリューワーズ カップ、バリスタ コンテストなどの権威ある大会で、珍しいフレーバーのコーヒーが優勝する傾向も見られます。

今後、コーヒーの大会はどうなるのか気になります。これらの注入されたコーヒーを使用している競合他社がさらに増えたらどうなるでしょうか?これは私たちの業界にどのように影響しますか?

問題は、これらのコーヒーが生産されていることではありません。エッセンシャル オイルやシナモン スティックを使用してコーヒーを注入したり風味付けしたりすることに問題はありません。世界中の多くの市場で、このようなコーヒーが人気になるでしょう。問題は透明性です。)

 

One of my biggest concerns is that farmers who are growing their coffee in extreme conditions and cultivating rare and expensive varieties could miss out in the future because of these infused coffees. At the same time, there are brewers and baristas who understand how to perfectly extract an espresso shot, but lose out to infused coffees that score perfectly in aroma and flavour.

(訳:私の最大の懸念の 1 つは、極端な条件でコーヒーを栽培し、希少で高価な品種を栽培している農家が、これらのインフューズドコーヒーのせいで、将来チャンスを逃す可能性があることです。

それと同時に、エスプレッソショットの抽出方法を完全に熟知しているバリスタやブリュワーでさえ、アロマとフレーバーでこのインフューズドコーヒーに負けてしまいます。)

 

Since I competed in 2015, farmers around the world have innovated with processing. But without transparency, I believe that the next generation will fail to be inspired by what we are doing today. At the time of writing, it is still challenging for judges to easily conclude whether or not a coffee is infused. This could be a major challenge in the future.Ultimately, we need to remember next generation of the coffee industry will be watching the champions and ambassadors of today. We have an obligation to inform, educate, and inspire them, and to leave them with the tools to improve our industry across the board. This is why we need to raise awareness and begin discussing these infused coffees.

(訳:私が 2015 年に出場して以来、世界中の農家が加工に革新をもたらしてきました。しかし、「透明性」がなければ、次世代は私たちが現在行っていることに刺激を受けることができないと私は信じています.

これを書いている時点では、審査員がインフューズコーヒーかどうかを簡単に結論付けることはまだ困難です。これは、将来の大きな課題になる可能性があります。

最終的には、次世代のコーヒー業界が今日のチャンピオンやアンバサダーを見ていることを忘れてはなりません。私たちには、彼らに情報を提供し、教育し、鼓舞し、業界全体を改善するためのツールを彼らに任せる義務があります。これが、意識を高め、これらの注入コーヒーについて話し合う必要がある理由です。)

 

サーシャが言うこの指摘には僕も賛成派で、スペシャリティコーヒーは多くの人を魅了する付加価値が沢山含まれている以上、そこに対する情報の透明性は絶対に必要だと思っています。

僕はこのサーシャの記事を2018年に知ったのですが、今でもインフューズドコーヒーには普通の生産者の豆以上にシビアなカップ評価を与えるようにしています。

その結果、お店で扱いたいと思えるほどのインフューズドコーヒーにはこれまで出会ったことがありません。

第三部―ASLANの立ち位置―

僕がインフューズコーヒーに出会ったのは今から2年前の福岡で行われたコロンビアコーヒーカッピングに参加した時でした。

品種名に「カスティージョ」と記載され、精製方法には「アナエロビコ(嫌気性発酵)」と記載されていたその豆からは僕が知っているカスティージョの品種特性とは全然違う金木犀のフレーバーが広がってきて『本当にこれがカスティージョなの?カスティージョの認識を改め直さなければいけないかも・・・』と、ワクワクを通り越してかなり困惑したのを鮮明に覚えています。

バイヤーにどういった生産状況からこのフレーバーが出来上がったのか情報を詳しく聞き込んだ結果、“この豆は金木犀の菌を抽出した液(今思えばおそらくそれはエッセンシャルオイルだったのではと思います)を一緒に漬け込んで”出来上がったフレーバーであることが判明しました。

バイヤーから与えられる情報は『金木犀の菌を抽出した液と一緒に漬け込んだ』という一点のみで、実際にその液は“どういった物”で、どういった精製意図や過程があって実際に今僕が感じているカップフレーバーになっているかなどの情報は知ることが出来ませんでした。

昔に比べて今はある程度スペシャリティコーヒーが認知されるようになり、生産者も様々なチャレンジを実践できるようになりました。私たちが飲むスペシャリティコーヒーの味もそれに比例して「心地よくて美味しいもの」から「珍しくてワクワクするもの」まで本当に多様な形が楽しめるようになりました。

僕はASLAN Coffee Factoryとして沢山の方にまだ知らないコーヒーの広がりを「美味しいと思える形」で「生産者の姿が想像できるほどにフルオープンな形」で楽しんでほしいと思っていますし、新しい生産への挑戦をしたいという生産者の情熱も応援したいと思っています。

そう思えば思うほど、その為にはスペシャリティコーヒーには「情報の透明性」が絶対に必要だと考えています。

二年前のカッピング会で出会ったあの金木犀の香りがするコーヒーが「美味しくて面白かった」のは事実ですが、情報の透明性がない以上、僕はそのフレーバーに対してスペシャリティコーヒーとしての肯定的な姿勢を持つことが僕は出来ません。

ただ、そのカッピング会を皮切りに様々な機会でインフューズドコーヒーに出会うことが多くなりました。

今年は特に各生産国のニュークロップ(収穫年が一番新しい新豆)サンプルカッピング会に参加した際に、“これはもしかしたらインフューズドコーヒーなのでは?“という疑問を持つ面白いフレーバーのコーヒーが多かったですが、そのほとんどのインフューズドコーヒーが「情報の透明性」に欠けており、肯定的なカップ評価を与えることが出来ませんでした。

 

これは僕の意見ですが、スペシャリティコーヒーは自由と多様性を重んじます。

フェアトレードを根っことして広がったスペシャリティコーヒー業界は生産現場まで性善説に基づいた信頼関係構築の上で売買が日々成立しています。

僕のように今は豆の品質が値段と釣り合っていなくても情熱を買うようなスタンスで「ここをスタートに毎年少しづつ品質の良いスペシャリティコーヒーの生産に挑戦していきたい」という生産者の豆を仕入れることも珍しくありません。

こうした“情熱”や“大義”がないとスペシャリティコーヒー専門店と看板を掲げてはならないとは思っていません。

むしろ、コーヒーを通して世界に自由と多様な価値規範を提案するためには、いろんな形のコーヒー屋さんがあった方がいいと心から思います。

ただ、だからこそ、このインフューズドコーヒーを「スペシャリティコーヒーとしてどういった位置づけとして扱うのか」という議論に対しては、業界としての早急な帰結点が求められていると僕は感じています。

そんな渦中のさなか、ASLAN Coffee Factoryとしてこのインフューズコーヒーを扱うというのは難しい決断でしたが、今回のロットを販売しようと思った理由は2点あります。

一つは、僕はこういった新しいスペシャリティコーヒーの大きな波が今、とても話題になっていることを知ってほしいと素直に思いました。

そして、知ったうえで実際にその味を味わってみることはとても楽しい付加価値だと考えています。

これから100年先の未来で、インフューズドコーヒーがどんな扱いになっているかは想像もつかない状態です。ですが、スペシャリティコーヒーの歴史における一つの転換点となる可能性は大いにあります。

「うわっ、なんじゃこりゃっ!こんなコーヒーの味もあるのか!・・・ふむふむ、これは確かに議論を呼ぶなぁ」

と、そんな歴史の転換点を味わえるのは現在のコーヒー好きにだけ許された特別な特権であり、僕は“ただのコーヒー好き”としてその瞬間はその瞬間でしっかりと噛みしめたいと思っています()

 

2つ目は、「サステナビリティ」と「情報の透明性」がスペシャリティコーヒーの根流であるならば、たとえそのコーヒーがどれだけ業界的に新しい形で扱いが難しいものであったとしても、情報に「透明性」があり、そこに情熱を燃やす生産者が仮に存在するなら・・・

僕がそのコーヒーを飲んで感じた品質の良さは肯定的に評価してあげるべきだと思っています。

そうでなければ、これからもっともっと自由競争が過熱化するスペシャリティコーヒーの世界から「多様性」は失われていくのではないかと僕は懸念しています。

 

インフューズドコーヒーのように新しいコーヒーの広がりは一般消費者にとってはとてもポジティブな変化を与えてくれますが、生産者にとってはポジティブな影響ばかりとは言い切れません。

サーシャ氏が勇気をもって世界中へ疑問を投げかけたように、私たちコーヒー屋はそういった新しい広がりが持つ影響力を自覚し、ポジティブな部分だけでなくネガティブな部分も含めた“本当の姿“を伝えていく作業を絶対に怠ってはいけないと思っています。

スペシャリティコーヒーの世界は情熱を持って素晴らしいコーヒーを生み出そうとする生産現場があります。そうした人たちの情熱はコーヒーに多様な進化の形を急速なスピードで与え続けています。

僕は自分が知らない世界を常に提供してくれるこのスペシャリティコーヒーの情熱と進化が大好きで、コーヒーには「知らないことを知る」そんな楽しみ方もあります。

 

コーヒーが『好みを嗜む品(嗜好品)』である以上、全てのコーヒー好きがそれぞれの好きなコーヒーの味を大事にしてほしいと思っています。

 

それは“お店の人“と”お客“という関係性の中でも失わず、大事にしてほしいと思っていて、出来る限りお客さんが「好きなものは好き、嫌いなものは嫌い」と言える対等な立場で皆さんと一緒にコーヒーの世界を楽しみながら、新しいコーヒーの世界や価値観を提案できたらいいなと思っています。

 

今回は本当に長い文章となってしまいました・・・苦笑

最後までこうしてお目を通していただき、ありがとうございます。

 

このデル・エデン農園のインフューズドコーヒーは僕が初めて出会った素晴らしいバランスのインフュージョンです。

きっと思い出に残る一杯になると思うので、楽しんでください。

 

 

参考文献:

1,『Perfect Daily Grind - How coffee flavour development impact fermentation?-July 14,2017https://perfectdailygrind.com/2017/07/how-does-fermentation-affect-coffee-flavour-development/

2,『Perfect Daily Grind - What’s the problem with infused coffees?-August 23,2021

https://perfectdailygrind.com/2021/08/infused-coffees-experiments-with-fermentation/

3,『SPRUDGESasa Sestic of Australia Wins The 2015 World Barista ChampionshipAPRIL 13 ,2015

https://sprudge.com/sasa-sestic-of-australia-wins-the-2015-world-barista-championship-

4,『WBC2015王者サーシャのコーヒー熱を追うドキュメンタリーThe Coffee Manhttps://coffee.ism.fun/article/c14dca77-a750-4826-b4d3-9068152f0b94

5,『Cofinet Coffeehttps://www.cofinet.com.au/

6,『WATARU Coffeehttps://www.specialty-coffee.jp/blog/article/6930

7,『Roast Magaginehttps://roastmagazine.com/

8,『Standrd 9月号』著:Standard Japan 2021,09